データに基づいた採用戦略の立て方 <定着編>

<連載コラム>データに基づいた採用戦略の立て方

1.導入編
2.集客編
3.採用編
4.定着編 ←今回はココ!

これまで「集客」「採用」とフローを進めて来ましたが、今回は最後の「定着」編となります。

「集客」「採用」を頑張ってデータドリブンにして、最適化していっても、「定着」をしなければ、永遠に枠が埋まらず、求人をし続けることになります。もちろん、当記事はアルバイト・パート採用をしている企業を対象読者としているので、「定着」と言っても1年〜3年程度でも、充分定着と言えると思います。

また今回は対象とはしませんが、本来、採用活動のゴールは「企業の、売上・利益を向上させる、活躍人材の採用」であり、付随的に「企業活動の運営を維持するための人数確保」だと考えられます。

今回の「定着」は、あくまで必要枠を埋めるという点に関するもので、本来は「活躍し、定着する人材を採用する」を目指したいものではあります。

ただ、「活躍」の定義は非常に複雑ですし、個人的に人間の成長には可能性があり、今まで活躍していなかった人も何かのきっかけで急に活躍人材となる事もあり、まだまだ分析と研究が必要な分野だと感じています。

そのため、今回はあくまで「採用後、すぐに辞めることなく一定期間定着する人材を採用する」事をゴールとします。

「定着」までの流れ

前回同様、今回ご紹介するフローも企業によって異なるため、代表的なものとして
採用(入社)→研修完了→半年定着→1年定着」を軸にお話していきます。

アルバイト・パート領域では、一部ベテランバイト・ベテランパートさんなどもいるかと思いますが、学生も多いでしょうから、まずは1年定着を目指すということで考えてみたいと思います。

また、前回同様流れを分かりやすくするために「採用(入社)」も入れましたが、「採用(入社)」については前回解説をしていますので、当コラム記事では「研修完了〜1年定着」までを解説します。

 

本コラムでの仮定義
■定着フェーズのフロー:採用(入社)→研修完了→半年定着→1年定着
■ゴール:一定期間定着する人材を採用をする

 

「研修完了」をデータドリブンに

各社、期間や形態(集合研修をするのかOJTのみかなど)は違いますが、入社後、明確に「研修時給」になったり、「研修期間」として区切っているものがあるかと思います。

まずは、この期間を無事通過し、「研修完了」となる人数を増やします。

ここでも、前回記事から度々お伝えしている通りではありますが、特にOJTを採用している場合など、「研修完了したかどうか?」は、現場から数値を吸い上げる必要が出てきます。

こちらも前回同様となりますが、現場からすると細かい報告は面倒なのですが、こういった数値を取ることで、より定着する人材採用ができるようになり、長い目で見ると現場の負荷を減らすことに繋がる、という点をしっかりと納得してもらうようにしましょう。

また、もし研修時給というものが存在するのであれば、経理と連携して給与支払いデータから研修後まで在籍しているかどうか?をデジタルに拾うこともできるかもしれません。

いずれにせよ、まずはデータドリブンの基本ですが、「データを確認できるようにする」ことが大事です。

その上で、具体的な分析・改善の方針ですが、データ取得が可能なら、さらに細かく見ていきましょう。

例えば、研修の長さとかけ合わせた分析では、研修期間が研修者にとって長すぎないか?を確認します。実際の研修の長さによりますが、1週間ごとの離脱率、1月ごとの離脱率、出社回数ごとの離脱率などを取り、どの程度の期間が研修期間として適切なのかを考えます。

また、職種によっても当然研修期間は違うでしょうから、さらに職種ごとに分解してみても良いでしょう。

また、OJTなどしている場合、店舗によってケアの度合いが違うかも知れませんので、店舗ごとの研修期間の離職率などを分析してみても良いでしょう。

研修期間での離脱が少ない店舗が、どのように研修生をケアしているのかを確認し、展開できそうなものは、全店舗に展開してみるのも良いでしょう。

 

研修完了フェーズ
■データ収集:研修完了人数
■分析:研修の「期間ごと」「出社回数ごと」等の離脱率。さらに職種別や店舗別ごとに分解してみると良いでしょう。

「半年定着」「1年定着」をデータドリブンに

「半年定着」「1年定着」については、そこまで大きな差がないため、まとめて解説をしていきます。

データの収集については、各店舗から状況を吸い上げても良いと思いますし、給与支払いデータなどから、デジタルに入社半年後、1年後の在籍確認をすることも可能ですので、店舗の協力状況や負荷を見ながら、データ収集の方法を検討してみてください。

定着に関しては、やはり店舗の環境や給与やシフトなどの条件面が原因として大きいでしょう。

まずは、店舗ごとに半年定着率・1年定着率を集計し、定着率が良い店舗ではどのような対応がされているのか?ということを分析してみましょう。

スタッフ同士の仲が良い、先輩など教育スタッフが充実している、人数が足りておりシフトの交代なども行えているなど、何か理由があるはずです。

また、逆に退職時に退職理由を徹底的に聞くことも大事です。

もちろん、全て本音で話してくれるということはないと思いますが、少しでも改善のヒントにするため、退職理由(今後のバイトスタッフのために、なるべく改善したいから、遠慮せずぜひ本音で!と口添えて)を収集しましょう。

そこから改善施策を考え、「どのくらい改善したのか?」という改善度合いの分析(改善施策の効果分析)につなげられるのも、データドリブンを意識し、データを収集出来ているからこそです。

また、改善にお金がかかるような施策でも、例えばどこか1店舗を選んで小さくテストしてみて結果が出れば、その結果を元に、経営陣に対して「これだけのお金がかかりますが、これだけの改善が見込めるので、施策を実施させてください!」と、具体的な費用対効果試算もできるようになり、提案も通りやすくなることでしょう。

 

定着フェーズ
■データ収集:
各店舗からの状況確認、給与支払いデータなど、店舗の協力状況や負荷を見ながら、データ収集の方法を検討し、各店舗の半年定着率・1年定着率を集計
■分析:店舗の環境や給与やシフトなどの条件面が原因として大きいケースが多いので、定着率が良い店舗ではどのような対応がされているのか?を分析。退職理由のヒアリングも大事。

今回、そして本連載のまとめ

ということで、最終回は少しコンパクトにはなりましたが、「採用をデータドリブンに」ということで、集客〜定着まで、データの集め方、データの分析の仕方、分析からの改善についてをお話してまいりました。

改めてですが、データドリブンという考え方を少しでもご理解いただき、データを収集するのはなかなか大変な部分もありますが、少しずつ社内で浸透させていき、全てデータを根拠に採用を語れるようになると、非常に仕事が進めやすくなります。

自転車に乗るときを想像してみて欲しいのですが、何事も最初はとてもパワーがかかります。

取得するデータを設計し、関係各所の理解を得て、実際に集め始めてみる、集めたデータを、分からないなりに分析してみる、分析した結果から、予算も取って店舗の店長にも説明をして対策を実施してもらう…。非常に大変だと思います。

ただ、自転車も漕ぎ始めてスピードに乗れば、そこまで力を加えずともどんどん走っていきます。

同じように、見るべきデータが定まり、店舗側も数字の報告に慣れてくれば、逆にデータがあることによって改善の提案は劇的にしやすくなります。

今回の連載で少しでも「なんか良さそう」「ちょっと試してみたいな」と思った方は、集客・採用・定着どれでもいいと思いますので、まずは少しでも取り組んでみてください。

それではまた、何かの記事などでお会いできますと幸いです。

ご高覧、ありがとうございました。

執筆者プロフィール

株式会社Task it 代表取締役(2016年より現職)
株式会社リクルートジョブズにて人材の営業、新規事業立ち上げ部署などで従事後、ウェブの可能性を感じ独立。ウェブ業界未経験の状態だったものの、ウェブ解析士取得から約1年半でウェブ解析士マスターまで取得。
現在は、個人・企業に対してウェブ解析士講座やGoogle アナリティクス講座の実施や、ウェブコンサルティングを行っている。
著書に「Googleデータポータルによるレポート作成の教科書」や「1週間でGoogle アナリティクス4の基礎が学べる本」がある。(ともに共著)

 

キーワード