<第11回>SNS採用など新たな採用の潮流
前回は、直接的にコンバージョンを増やす手段として、応募ボタンを目立たせる、複数設置する、ハードルを下げるといったお話をしました。私がウェブを学んでいく中で「人事など人材業界の方に、これは知っておいて欲しいな…」とまず最初に思った内容としては、概ねお話ができたと思っております。
そこで、今回はいわゆる旧来の自社ウェブサイトや求人サイトを使った採用だけでなく、SNSなど新たな手法を使った、採用の潮流についてお話しようと思います。
SNSで採用なんて…と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、実は特にアルバイト・パートなど若年層の採用とSNSは非常に相性が良いと考えられます。
まず単純に「採用したい層のユーザーが多く見ている」ということです。
こちらは、総務省発表の令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書からの引用となりますが、ご覧頂くと分かる通り、SNSは特に若者中心に利用されています。
例えば、飲食店探しなども今までは「検索エンジンで検索→大手グルメサイトなどで探す」という行動しかありませんでしたが、最近では「SNSで見かけて美味しそうだったから行く」というような行動も当たり前になってきています。
そんな中で採用についてもSNSを活用する流れが生まれてきています。
なかなかイメージがつかない部分もあるかと思いますので、まずは事例をみてみましょう。
♦TikTokで大人気となった“踊るタクシーおじさん”誕生秘話、採用活動に効果も!
https://tiktok-for-business.co.jp/archives/9373/
こちらがおそらく、「採用に繋がったSNS運用」の、最も有名な事例かと思います。
詳しい内容は、上記記事を参照頂きたいのですが、こちらの会社様のSNS運用が採用につながった理由について考察してみたいと思います。
私の思うポイントとしては、2つあります。
「採用が目的ではなく、結果として後から付いてきている」
「該当SNSに合わせたコンテンツを投稿している」
という点です。
それぞれ、解説をしていきます。
上記記事の続きの方の記事にもありますが、こちらの会社様はもともと「採用活動につなげるためにTikTokをするぞ!」と始めた訳ではなく、「当初は若者に知ってもらいたいというのと、自分自身の好奇心もありました。」(続きの記事より引用)ということで、当初はシンプルに「SNSを使ってみたい!」であったり、「若者がよく見ているSNSメディアで、会社について知ってもらいたい!」というような思いで始めただけだった。という点です。
これは正直、なかなか会社の判断として難しい部分だとは理解しているのですが、「短期的な結果を求めない」ということが必要となってきます。
SNSは「結果が出ない」や「結果が出づらい」という事を言っている訳ではなく、あくまで「本来はユーザー同士の交流の場(SNS)」を使って、企業が広報や採用をしていく、という意識をもつ必要があるということです。
SNSは、イメージでいうと公園のようなものです。本来は企業が販促をする場ではなく、ユーザー同士が交流する場です。
ただ、その交流の場がちょうど企業にとっても告知や採用に繋げたいユーザーが集まっている場なので、その場をうまく活用するというイメージを持って投稿していく必要があります。
つまり、次の2点目のポイントに繋がりますが、該当SNSに合わせたコンテンツを投稿するということです。
ここで言っている内容は、非常に稟議を通すのが難しいだろうとは思うのですが、それでも長期的な目線で採用を増やしたい、コストを下げたいのであれば、やっていく価値はあります。
先程の節の最後にもお伝えしましたが、ユーザーが交流している公園のような場所で急に企業が「商品を買ってください!」「うちの会社に入ってください!」というような投稿をしていくと、見てもらえないし、嫌がられてしまいます。
そのため、企業もユーザー交流の場の「1ユーザー」として参加していく必要があります。
その点、上記事例の三和交通様の場合、「TikTok」というSNSで非常に相性の良い「ダンス」というコンテンツを投稿しているので、嫌がられることなく多くの方に見てもらうことができたのだと考えられます。
郷に入っては郷に従えではないですが、企業側からユーザーに合わせていくことが大事になります。
もちろん、「商品を買ってください!」「うちの会社に入ってください!」という投稿ができない訳ではないですが、そういった投稿は、何か面白みでもない限り全く見られずに終わってしまいます。
SNSを採用に使う場合、まず意識して欲しいことは、「即結果が出るものではない」ということです。
実際に、SNSが採用につながることは多々ありますが、「直接的に採用目的のみでSNSを運用する」ということはあまり現実的でない、ということです。
極端な例で言えば、「●●の求人が空いたので、ぜひご応募ください!」というような投稿ばかりが並んでいても、全く効果は出ないと言っていいでしょう。
では具体的にどうすべきかというと
「企業としての考え方、内情、仕事内容、こだわりなどを」
「伝えたいユーザーが使っているSNSで」
「そのSNSで好まれるようなコンテンツ形式で」配信する
ということをやっていくと、少しずつですが社名や仕事内容、会社としての哲学、社風などに対しての認知が広がり、結果として「この会社で働きたい」という人が増えることで採用につながる。
このように、長期的かつ間接的な施策だということを、理解した上で行う必要があります。
当然、そういった投稿の中に、「●●店の〇〇職種が募集開始しました!ぜひご応募ください!」という、直接的に求人につなげる投稿があることは問題ありませんし、またぜひその際には、自社採用ホームページの原稿などとリンクをさせることで、SNS上の投稿自体はそこまで長文にならずに、伝えたいことをしっかりと伝えることができます。
短期的な成果が必要なのであれば、やはり「広告」を打つということになります。
求人会社が、長い年月とお金を掛けて多くの候補者が集まる「場」を作ってくれていて、多少値は張りますが、「求人情報を探しているユーザー」に直接「求人情報」を届けられるので、ある意味で無駄がないと言えます。
しかし、広告は「掲載している間は効果があるが、掲載を停止したら効果がなくなる」という性質があります。以前第6回前編や第6回後編でご説明した自社のコンテンツのSEOや今回ご紹介したSNS活用など、地道ではありますが自社の資産となるような活動も併せてやっていかないと、いつまでも求人広告だよりの採用から抜け出すことができません。
少しでも採用コストを減らしたい、自分たちでもできることをやっていきたいという考えをお持ちの企業様であれば、ぜひSNSの活用も考えてみてください。
株式会社Task it 代表取締役(2016年より現職)
株式会社リクルートジョブズにて人材の営業、新規事業立ち上げ部署などで従事後、ウェブの可能性を感じ独立。ウェブ業界未経験の状態だったものの、ウェブ解析士取得から約1年半でウェブ解析士マスターまで取得。
現在は、個人・企業に対してウェブ解析士講座やGoogle アナリティクス講座の実施や、ウェブコンサルティングを行っている。
著書に「Googleデータポータルによるレポート作成の教科書」や「1週間でGoogle アナリティクス4の基礎が学べる本」がある。(ともに共著)