データを活かして小売業をDX。コロナ後の生き残りと成長戦略

リテイルサイエンス・大久保氏登壇、2022年8月24日開催
HRソリューションズ主催のセミナー「コロナ後の生き残りと成長戦略〜流通革命による価値創造とは〜」が2022年8月24日に開催されました。
当日は、多くの大手小売企業で経営再建経験のあるリテイルサイエンス ファウンダーの大久保氏とみずほフィナンシャルグループの柿原氏、HRソリューションズ代表の武井が登壇。
小売業が抱える課題に対して今後取り組むべきDX (デジタルトランスフォーメーション)や来春解禁に向けた議論が進むデジタル給与で弾みがつくキャッシュレス決済への取組みを通じて、新しい価値を創出するビジネスモデルの実現について語りました。
本記事では、セミナーの内容をまとめてお届けします。皆様の課題解決のヒントとなれば幸いです。

コロナ後の生き残りと成長戦略〜流通革命による価値創造とは〜


リテイルサイエンス ファウンダー
西友 代表取締役社長
大久保 恒夫 氏

早稲田大学法学部卒業。イトーヨーカドー 経営政策室に配属。1990年にリテイルサイエンスを設立。ドラッグイレブン、成城石井、セブン&アイ・フードシステムズの代表取締役社長、セブン&アイ・ホールディングス常務執行役員を歴任。2021年に西友 社長 兼 最高経営責任者(CEO)に就任。リテイルサイエンスのファウンダーも兼任。著書には『AI流通革命3.0』など。

 

単なる販売業から、販売データを活用したマーケティング業へ

情報技術が大きく発展した今、データの取得・活用コストが大きく下がっています。
だからこそ「今後小売業が利益を上げるためには、データを活用したビジネスモデルの構築が不可欠だ」と大久保氏は語ります。
単なる小売販売業から、データを活用したデジタルマーケティング業へ事業構造を転換するべきだと提唱しました。

具体的なビジネスモデルの一つとして、メーカーとの共同製品開発事業を紹介してくれました。小売業が持つ顧客の購買ビッグデータは、メーカーにとって有益な情報の宝庫です。

・誰が
・いつ
・どんな商品を
・どのくらい
・どんな値段で
・どれくらいの頻度で

商品を購入したかを解析することで、顧客の詳細なニーズが見えてきます。
今までは「メーカーが商品を作り、小売が売る」と役割が分断されていましたが、今後は顧客データを横串に、顧客のニーズに刺さる新製品をともに開発する時代になるといいます。

また、自社アプリやネットスーパーといった自社プラットフォームの開発にもぜひ取り組んでほしいとのことです。
アプリのレコメンド機能や広告機能の強化を行うことで、将来的なビジネスチャンスの種になるからです。

・アプリ内でのプロモーションの履歴
・行動履歴
・購買履歴

これらを突合することで「どんな顧客にどんな情報を見せると商品が売れるのか」というプロモーションノウハウも情報として蓄積されます。
多くの顧客を持つ企業ほど顧客データが蓄積されるのも早いため、プロモーションのアルゴリズムはより精度の高いものとなっていきます。
「店舗が運営するアプリにメーカーが広告費を出してプロモーションを掲載するのは、これから当たり前のことになっていくでしょう」(大久保氏)。

 

デジタル活用でお客様との関わり方も大きく変わる

「小売業にとってアプリやネットスーパーの存在は必要不可欠なものになりつつある」という大久保氏。

小売業でアプリやネットスーパーを活用するメリットは、今までの「不特定多数に対する、一方的な情報提供」から「顧客一人ひとりにとって最適な、双方向的コミュニケーション」へ情報発信のあり方を大きく変えられることにあります。

デジタル活用において重要なのが、高頻度で商品を購入し、一回あたりの購入金額も高い「ロイヤルカスタマー」の人数を増やすことです。
しかしロイヤルカスタマーと一言で言っても、

・週に数回、特売の生鮮食品を買う人
・来店頻度が高く、お惣菜を買っていく人
・毎週週末に来店し、冷凍食品を大量に買う人

など、購買金額と購買頻度、購入する商品は人それぞれ。
アプリやネットスーパーを活用することで、顧客一人ひとりのライフスタイルに合った商品を最適なタイミングでレコメンドできるようになります。
またどんなライフスタイルの人が多いのか分析することで、店舗の棚割りにも応用できます。

上記のようにデジタルを活用しながら一人当たりの来店頻度や購入金額を高める仕組みを整えている企業とそうでない企業との間では、その差はどんどん広がっていきそうです。

 

決済・ポイント活用戦略が小売業生き残りの肝に

また大久保氏によると、顧客のアプリ・ネットスーパー活用を推し進めるには、企業独自のポイントやプリペイド決済システムを持つのがおすすめだといいます。

独自のポイントやプリペイド決済システムを導入することで、顧客は「利用できる金額がどれくらいあるか」を確かめにアプリを立ち上げるようになります。
そのタイミングで適切なレコメンドをすることで、顧客の来店意欲を引き上げられます。

また利益率が低い小売業にとって、クレジットカードやバーコードといったキャッシュレス決済の利用手数料は死活問題です。
しかし、今後キャッシュレス決済が普及するのは避けられません。
「小売業の企業はこの流れを見据えながら、決済における手数料の負担をいかに軽減していくのかを考えるべきでしょう」(大久保氏)。

決済サービスやポイントプログラムが乱立している今、「自社サービスのためだけ」のポイントやプリペイド決済システムは顧客に選ばれにくくなっています。
だからこそ自社だけではなく、他社の決済サービスやポイントプログラム運営会社と提携しながら、ポイント経済圏のエコシステムを確立することが必要になるでしょう。

 

利益率の低い小売業。だからこそ「既存システム」と「人」で地盤固めを

情報技術の発展によりデータ取得・活用のコストは下がっているとはいえ、利益率が低い小売業にとって、あまりにも大きすぎる先行投資は経営を悪化させる危険があります。
そのため小売業界でDXに取り組む際は、地道に足元を固めるのが肝要ですと大久保氏。

DXの最初のステップとしてまず着手するべきなのは、既存システムと人材教育の強化です。

既存システムは、既存の購買データを活かして棚割りや販売計画、発注などのデジタル化・自動化などといった身近なところから始めるのがおすすめだといいます。

小売業において売上を大きく左右する棚割りですが、勤怠管理や品出しなどの業務に忙殺され、「棚割りは取引先に任せている」という店舗も多いのではないでしょうか。
しかし売上を上げたいのであれば、過去の購買データや受発注データを活かした棚割りは欠かせません。

また魅力的な棚作りとともに、不要な作業の手間を省くことも重要です。
例えば「お客様の目に留まりにくい下段は発注の少ない商品を大量に配置し、1ケース売れたら自動発注してそのままケースごと品出しする」といったオペレーションを組めば、発注〜品出しまでの作業生産性を向上できます。

このように顧客の購買行動と社員のリソース全体を俯瞰しながら、データに基づいて商品の仕入れや陳列などを最適化していくべきだと大久保氏は語ります。

 

人材戦略は「デジタル」と「マインド」の両立が大切

さらに、今後は最適オペレーションに基づいたシフト管理を行い、役割分担を柔軟に組み替えられる仕組みが求められるでしょう。

その際、スタッフのスキルやシフトに合わせて適切な作業を割り当てる作業は骨が折れるもの。
そこで大久保氏は、e-ラーニング教材の拡充を行いスタッフのスキル開発を行いつつ、スタッフの作業割り当てを自動化するシステムなども活用することをおすすめしています。

一方で「現在私が店長教育などを行う際は、『商人の心を持て』と話しています。今後データ活用が重要な時代になりますが、データの方にばかり目が向いてしまい、お客様へ気持ちの良いあいさつや感謝が出来なくなってしまっては本末転倒です」(大久保氏)と、店舗経営がデータ重視に偏りすぎてしまうことの危うさも指摘します。

データがあったとしても、それを分析し活用するのはあくまでも人です。
「やってみなければわからないことも多いからこそ、お客様のニーズをきちんと観察して新しい取り組みに挑戦し、データを見ながら小さくPDCAを回せる人材を育てていきたい」(大久保氏)と意欲を語りました。

AI流通革命3.0研究会の詳細はこちら
https://airkw.net/

小売業に来るキャッシュレスの波。決済DXを実現するハウスコインとは?


みずほフィナンシャルグループ
デジタルイノベーション部
執行理事 部長
柿原 愼一郎 氏

19年度から現職。主にキャッシュレス決済や自治体DX、地域通貨などに取り組み、多くの小売業や自治体のお客さまのデジタルトランスフォーメーションの支援に携わる。

 

小売DXにまつわる4つの課題

みずほフィナンシャルグループ デジタルイノベーション 部 執行理事の柿原氏からは、キャッシュレス化が小売業界へ及ぼす影響と、小売業の決済関連の課題について解説がありました。

現在小売事業者の多くは、決済関連のDXに関して4つの課題を抱えているといいます。

・課題①手数料:クレジットカード会社やQRコード決済事業者の決済手数料が高い
・課題②マーケティング活用:顧客の決済データをマーケティングに活かせていない
・課題③エンゲージメント:自社アプリを活用し、顧客エンゲージメントを高めたい
・課題④オペレーション:プリペイドカードのチャージによる業務負担が増えている

多くの企業でプリペイドカードの発行や自社アプリの開発などといった動きは進んでいるものの、それらを十分に活用しきれていないと感じているところは多いようです。

 

店舗・サービスごとに独自のコインを発行できる「ハウスコイン」

みずほフィナンシャルグループは2022年6月、特定の店舗・サービスに限定して利用可能な独自コインを発行できる決済サービスの提供を開始しました。
各社のスマートフォンアプリに同サービスを組み込むことで、銀行口座経由のチャージや自社ポイントの付与などが可能となっています。

「ハウスコイン」の特徴は下記の3つです。

特徴①手数料の安さ

一般的な決済サービスの手数料が2~3%なのに対し、ハウスコインの決済手数料は1%前後。
他社と比較して低コストでキャッシュレス決済を利用できます。

特徴②データ活用

ハウスコインでは決済データを自由に閲覧できるため、「多くの金額を購入いただいたお客様限定でポイントやクーポンを発行」といった顧客に合わせたマーケティングが可能となります。

特徴③ポイントの自社還元

従来の決済サービスやポイントプログラムでは、ポイント分の決済手数料を負担しているにも関わらず、ポイントの利用先を指定できません。
一方でハウスコインは、自社店舗・サービスのみで利用可能なポイントを発行するため、付与したポイントが外部に流出しません。

現在決済領域は、「FinTech(フィンテック)」「キャッシュレス」というキーワードとともに大きな変革の流れが来ています。

もうすでに個々人同士のお金のやり取りや、個人から企業へのお金のやり取り(商品購入)はキャッシュレス化が当たり前のものになっています。
今後は、企業から個人(給与支払い)や企業間(BtoB取引)のお金のやり取りもデジタル化していくというのが柿原氏の見立てです。

「そして採用における魅力づけや、会社の資金繰りの解決策として、キャッシュレスは企業経営により欠かせないものとなっていくでしょう。今後もみずほフィナンシャルグループはファイナンスの領域で小売事業者の方たちをサポートしていきたいと思います」(柿原氏)。

 

コロナ禍の採用環境と小売業の人事・雇用領域におけるDX


HRソリューションズ
代表取締役
武井 繁

 

スーパーの人手不足はコロナ禍以前レベルに

HRソリューションズの武井からは、冒頭、コロナ禍におけるスーパーの求人・応募トレンドを解説させていただきました。

HRソリューションズの調査では、2020年から2021年にかけて、意外にもスーパーの人手不足は改善傾向にありました。
これは緊急事態宣言の影響で飲食系・ホテル関連の求人数減少やシフト減などが発生し、仕事を求める求職者の受け皿としてスーパーへの応募が大きく増えたためです。
しかし自粛ムードが緩和されつつある2022年、徐々にスーパーを退職し、飲食・ホテル関連の仕事に戻る人が増えています。
今まさに雇用の流動化が起こる中で、応募数がコロナ禍前のレベルにまで戻ってしまう可能性を指摘しました。

また、パートタイム労働者の月間労働時間が減っているのも無視できない問題です。
厚生労働省の調査によると、2013年には一ヶ月あたり90時間あった労働時間が、2020年には月78時間にまで減っているといいます。

 

原因のひとつとして、パートタイムで働く既婚女性を中心に、社会保険料の配偶者控除や扶養控除の範囲内で働く「働き控え」の傾向が強まっていることが挙げられます。
また、パートタイムで働く高齢者の割合が増え、体力的に長い時間働けないことも一因です。

今後企業は「一人当たりの労働時間」が短期化することを念頭に置いて、人材確保を進めていく必要があるでしょう。

 

人材活用のカギは追加就労労働者によるスポットバイト

一方で、新型コロナウイルスの影響で収入が減少した労働者の中には「もっと働きたい」というニーズを持つ人もいます。
彼らは「追加就労希望就業者」と呼ばれており、現在日本には約225万人いるといいます。

長い間『一人一社』での勤務が当たり前だった日本社会では、別の職場ですでに働いている人を雇う仕組みが整っていませんでした。しかし人材不足が喫緊の問題となる今、希望している人が多様な職場で働ける社会を実現していく必要があります。

一方で、企業の「働いてほしい」ニーズと求職者の「働きたい」ニーズが細かくなればなるほど、マッチングの難易度が高まり、不採用や短期離職などのミスマッチが起こってしまいます。

2022年10月にHRソリューションズが事業承継する日本最大のシフトマッチングサービス「シフトワークス」は、そんな両者のピンポイント化するニーズのマッチング機会を最大化するサービスです。

 

労働人口が減少する中で安定的に人材を確保するには、マッチする人材をスピーディーに見つけ、応募から採用までのコストを極限まで下げた上で活躍・定着してもらう仕組みの構築が不可欠です。
「シフトワークス」はその中でも「マッチする人材をスピーディーに見つけ、応募から採用までのコストを極限まで下げる」ことに特化したサービスです。

1900年のニューヨークは馬車が走っていましたが、そこからわずか13年後の1913年には全ての馬車はフォード社の車に置き換わっていました。たった13年でここまで大きな変化が起こるのです。そして2022年は1900年のニューヨークのように、時代が大きく変わろうとしています。

そんな中で未来を予測する最良の方法は、自らそれを発明・創造することです。当社の企業理念は『新しい価値を創造し、社会の豊かさに貢献する』。維持改善と呼ばれるような小さなイノベーションから、DXという大きな創造も含めて、皆さまの事業のイノベーションを引き続き支援してまいりたいと思います。

編集後記:HRソリューションズより

今回のセミナーは、日本の著名な小売企業のCEOや要職を適任された大久保様をお迎えし、小売業が価値を創造する「新しいビジネスモデル」をご紹介頂きました。
小売業に限らず様々な業種の方々にご参加頂き、セミナー終了後には多くの感想を頂きました。

・これから必須になるDXについて実務に即した話を聞けてよかった
・人手不足の現状、雇用の仕方、これからの働き方の変化に柔軟に対応していくことが大切であることが理解できた
・小売業界の未来に対する視座が上がった
・人材の要望に合わせて雇用のあり方を柔軟に対応する必要性を感じた
・これからの成長戦略のヒントになる内容がたくさんあった
・自社が考える課題がそのまま露呈されたように感じ、いかに小売業として生き残っていくかを考える大変良い機会となった

参加者の皆様には、今後小売ビジネスを成長させるためのヒントを少しでも持ち帰っていただけたかと思います。

HRソリューションズでは、人材採用や雇用管理業務のDXまで様々なソリューションをご提供させて頂いております。今回セミナーにご参加頂いた皆様からいただいたお声にお応えすべく、現在さまざまなセミナーを企画中です。

11月17日(木)には、採用機会の多いアルバイト・パートでの入社手続きがWEB上で完結し、業務効率化・スピードUPを実現する入社手続きのデジタル化セミナーを開催します。

人事部門に加えて、契約業務を行う労務部門のご担当者様を対象に、自社の業務に落とし込む上で気を付けるポイント・推進のコツを、実際の事例も交えながらお伝えしますので、是非ご参加ください。

セミナーのご案内

2022年11月17日(木)15:00-15:45

『人事労務の業務効率化、スピードUPに効く!入社手続きのデジタル化』
https://hr-s.seminarone.com/20221117/event

今後のセミナーもぜひご期待ください。